[連載]Part.2 日本が「物流の過疎地」になる!?世界のトラックセキュリティ最前線

セキュリティ

セキュリティ対策の立ち遅れが、日本を「物流の過疎地」にしてしまう――。
こう警鐘を鳴らすのはTAPAアジア日本支部理事長の浅生成彦氏だ。
世界のトラックセキュリティの現状とはどのようなものなのか。
前回に引き続き、浅生理事長に聞いた。

ドライバーの走行レーンまで指定する企業も

――――海外では、トラック物流のリスクは具体的にどのようなものがあるのでしょうか。

TAPAには、IIS(Incident Information Service)という、世界の盗難事件の情報をヨーロッパの本部が集計し、リアルタイムで確認ができるという仕組みがあります。今世界中で、どこでどのような盗難が起きているのかを把握できます。

これを見ると、トラック輸送中に商品が盗難されてしまうケースは、世界中で多発しています。なかにはドライバーによる犯行も少なくありません。だからこそGPSが発達しているのです。どのようなルートを通り、どこで停車したのか、扉をいつ開け閉めしたかなどを、GPSによってリアルタイムで監視している企業もあります。

例えば、私が視察したあるフィンランドの通信ソフトウェアメーカーから委託を受けているドイツの大手の物流会社では、GPSによって「道路のこのレーンを走りなさい」ということまでドライバーに指定していました。そこまで安全に気を使っているんですね。この会社は精密機器を扱っているので、トラックを1台盗難されただけでも何十億という損失になるからです。

このように、世界では高単価で質量の小さい商品が盗難のターゲットになっています。最も多いのは医薬品ですね。医薬品はすぐに転売して現金に換えられるうえ、高単価で質量が小さく、最も狙われやすい。

医薬品の盗難は、ここ数年中国で多発しています。このため中国では今、国家(各省)主導でTAPA導入に取り組み、認証を受けていない業者は取引が困難な状況になりつつあり、倉庫保管・輸送の安全基準などセキュリティ規格が徹底されるようになっています。

――アジア諸国でのセキュリティの現状について教えてください。

トラックセキュリティでいえば、私がTAPAアジア支部の代表になって9年経ちますが、その間、東南アジア諸国に対してトラックセキュリティを推進すべきであるという話をたびたびしてきました。しかし、彼らは当初、船便や空便のセキュリティについては積極的に導入していましたが、トラックセキュリティについてはあまり関心がないようでした。今思うと、各国によってトラック物流の基準がなかったのだ、と考えます。TAPAにはTSR(トラックセキュリティ要求事項)という車両の運行や機器設置の基準があって、いそのボデーが開発したドアの自動開閉装置(i-Skip Door)のような堅牢なセキュリティ対策が求められています。

ここ数年前からベトナム、タイ、ラオス、ミャンマーなどを陸路で結ぶインドシナ半島物流が急速に発展し、この重要な幹線道路のセキュリティ基準をどう定めるべきかが各国の懸案事項になっています。

私は、ここは日本が主導権を発揮し、各国共通の基準としてTAPAを導入すべきだと考えています。ただ、セキュリティ導入に関する考え方やイニシャルコストが各国ごとに違うので、その点の調整をどうするのかが今後の課題かもしれません。

中国から「日本の倉庫は大丈夫か」と聞かれる時代

――――インドシナ物流のセキュリティが注目され始めたのはいつごろでしょうか。

4、5年前からでしょうか。実は、日本でインドシナ半島物流のセキュリティに注目が高まっている理由は、日本の消費者の安心・安全に直結するからなんです。特に、食品メーカーでは製造現場での衛生管理が適切に実施されているかをリアルタイムで把握することや、現地での輸送や倉庫での保管中に異物混入などの問題が起こった場合、製品回収のためにかなり費用がかかりますので、とてもセンシティブになっています。

海外の製造現場では、多くの企業が日本人の責任者を置き、また現地のスーパーバイザーを雇用していますが、実際には管理・指導が行き届かず、盗難や異物混入をはじめとしたさまざまな事件・事故が起こっています。ただ、こうした事件のなかには、現場のセキュリティ基準が充実していれば防げたという例は少なくないんです。

かつては中国産冷凍ギョウザへの農薬混入事件を背景に、日本では中国産製品の監視を強める企業が増加したのですが、最近では日本企業が中国企業から「日本の倉庫のセキュリティ基準は大丈夫なのか」と言われてしまう時代になってきています。彼らは国で定めた基準は守りますから。それほど中国はいま徹底しているんですね。

――このまま日本のセキュリティ対策が立ち遅れれば、国際競争力を落とすことにもつながりかねませんね。

まさにそうだと思います。そもそも私が日本でTAPA認証普及を目指す取り組みを始めたのは「日本の港から商品がなくなってしまう」という危惧があったからなんです。国際物流の機能や取扱高は、シンガポールや仁川、香港に奪われています。このままですと、商品を日本経由にて運搬するという海外の荷主が激減し、日本の港での「物流の過疎化」が進んでしまいかねません。

実際に当団体にも、アメリカやヨーロッパの荷主から「日本でTAPA認証を取得している倉庫はどこにあるのか」と質問されることも増えてきました。世界では、TAPAを取得していることが共通基準化しています。そういう意味では、世界の常識と我われ日本人の常識が乖離していることを認識しなければならないでしょう。

TAPAアジア日本支部の浅生成彦理事長に、日本のセキュリティ事情についてお聞きするインタビュー企画の中編をお届けしました。最終回では、今後日本の物流業界は、セキュリティ強化をどのようにビジネスチャンスに変えていけばいいか、お聞きします。