水産物の安全を守る漁業業界の物流事情~フードディフェンスと輸送におけるTAPAの重要性~

日本人は世界で最も魚を食べる国民であり、刺身や寿司のような生食をする特徴もあります。輸送の際に鮮度を保つことは、味の面でも安全性の面でも非常に重要です。最新のテクノロジーによって漁業業界の物流はどう進化したのでしょうか。

鮮度が命!産地と都市を結ぶ物流

魚介類の鮮度をどのように保つかというのは、長らく漁業輸送の難しいテーマでした。一昔前はとにかく大量に運ぶというのが消費者のたくさん食べたい欲求や、コストを下げるというミッションを達成するのに適していました。しかしながら、現在消費者は量よりも味や鮮度など質を重視するようになり、高くても良いものは売れるという時代になりました。

そのような状況で既存の漁業業界の物流システムはニーズに合わないケースが出てきています。特に飲食店のように「美味しい食材を提供するのが義務」のような仕入れ元は、従来の慣習に縛られない物流方式をとるようになっているのです。

既存の漁業物流システム

これまでは以下のような流れで、産地の生産者から都市の消費者へ魚介類が届いていました。

①生産者
②漁協、浜中買商
③卸売市場
④卸商、中卸商
⑤飲食店、スーパー
⑥消費者

生産者としては仲介業者が入ることで、手離れよく漁獲した生産物を販売することができるというメリットはあります。質より量を重視するようなケースであれば、既存の方式でも問題ないのかもしれません。

この方式の問題点は、間にたくさんの仲介業者を挟むためにコストがかさむこと、消費者に届くまでに時間がかかることです。高級食材を扱う飲食店や質にこだわる消費者にとっては、この方式だと満足いく生産物を入手しづらくなります。また、希少だったり扱いの難しい海産物を手がけている生産者にとっても、従来の方式だと時間がかかりすぎる、大量に獲れるわけではないので1匹あたりのコストがかさむというデメリットが生じます。

新しい漁業物流システム

質の良いものを短時間で消費者の元へ届けるために、産地直送で飲食店や消費者に鮮魚を届けるという動きが強まっています。また、自前では流通経路を確保できない生産者、その日に仕入れるべき生産物の選定の手間を減らしたい飲食業者に向けた、高級鮮魚専門の卸業者も現れました。

低温輸送を実現する技術

既存でも新しい方式でも、鮮度を保ったまま輸送をするということへのニーズは上がり続けています。漁業輸送のテクノロジーの今と昔を比較してみます。

これまでの低温輸送

鮮魚を配送するにあたっては大きく分けて2種類の方法があります。締めた魚の冷凍車による輸送と、活魚をトラックの水槽に入れて運ぶ輸送です。

魚を締めて冷凍するというと簡単に聞こえるかもしれませんが、実際はそれほど単純ではありません。まず、魚は死後硬直が始まった瞬間から鮮度が落ちていき、刺身や寿司の場合は死後硬直から24時間以内でないと高級店では使えません。

また、魚が生簀や水槽で暴れるとストレスにより乳酸などが分泌され、これも品質を落とす原因になります。料理屋で水槽を泳いでいる魚は新鮮そうに感じますが、場合によっては活魚でも品質が良くないケースもあるのです。

そのため、水揚げした後に活け締めという方法がとられます。これは、活魚を気絶させ麻痺状態にしているうちに血抜きをしてしまうことで、疲労物質が分泌されるのを防ぐという意味があります。これは一体一体行うのに非常に手間がかかります。

以上のことから、冷凍車による輸送も水槽に入れて運ぶ輸送も、品質面からいえば完璧ではありません。考えなければならないのは、死後硬直を遅らせ、魚にストレスを感じさせない輸送方法です。

最新の低温輸送

これまでの低温輸送はトラックそのものの設備であったり、締める際のテクニックが重要でしたが、変化が訪れています。

一例としては水揚げした後の魚を特殊な氷水に入れることで、魚が麻痺して死亡し、体の組織が低温により硬直するため死後硬直が始まらないというテクノロジーがあります。これは氷水によって活け締めと似た効果を生んでいるわけです。手間もかからず、鮮度は活け締めより上がります。この方法であればこれまで冷凍車に積んでいた発泡スチロール箱の中身の氷水を変えるだけでいいので、巨額な設備投資が必要ありません。この種の氷はいくつか種類が出ており、今後も競争が激化することが予想されます。

また、冷凍設備もただ凍らせるだけではなくなっています。冷凍庫の中で磁力や光、音等を魚介類に加えることで鮮度を保つ技術や、魚を締めずに仮死状態にすることで新鮮さを保って輸送できる装置も開発されています。
死んだ魚をどう運ぶかではなく、どうやって殺さずに輸送するかは今後さらに需要が伸びる分野でしょう。

水産物の安全を支える物流の役割

生食の多い日本の水産物は食中毒の危険と常に隣り合わせです。もちろん輸送の際の取り扱いが食中毒の原因になることもあり、物流の役割は安全面でも重要です。以下では水産物の食中毒原因とその原因を述べていきます。

アニサキス

ここ最近話題になることが多いアニサキスは、幅広い種類の海水魚に寄生する寄生虫です。天然物にのみ寄生し、養殖魚には見られないことから、高級天然魚の方がむしろ危険と言えます。

アニサキスは低温の海の中では魚の内臓に寄生しています。水揚げ後もすぐに冷凍すれば、アニサキスは内臓にとどまったままです。ですので、すぐに冷凍した魚から内臓を綺麗に除去すれば、刺身や寿司のような生食であってもアニサキスが人間の口に入ってしまうことはありません。

しかし、地上で常温で放置していると、アニサキスは内臓から出て魚の筋肉の部分に移動します。筋肉の部分に移動した状態で魚を生で食べると人間の消化器にアニサキスが侵入してしまい、アニサキス症が発生するのです。釣り人が自分で釣った新鮮なはずの魚を食べてアニサキス症になることが多いのは、釣り上げてすぐに冷凍せずに常温で放置したり、調理の時点で常温になってしまったりというのが原因です。

ですので、魚の物流という面でも、水揚げ時にしっかり冷やされていること、輸送時も確実に低温状態を維持していることが必要になります。

腸炎ビブリオ

腸炎ビブリオは海産物には普通に付着している細菌です。熱に弱いので加熱食品では問題になりませんが、生食の際に危険が生じます。

増殖する条件としては、常温で放置しておくことなので、やはり水揚げしたらすぐ冷凍する必要があります。特に夏場は危険です。切り身にした後の魚介類に関しても、輸送時は冷凍を徹底しなければなりません。

ヒスタミン中毒

ヒスタミンはアレルギーを引き起す物質で、花粉症や他の食品のアレルギーもこの物質によるものです。魚でいうと赤身魚に多く含まれており、やはり常温放置や複数回の凍結・解凍の繰り返しにより生成されます。物流においての対策は、冷凍状態をしっかり維持できる設備、積み降ろし、積み替えの際などに解凍されないように注意する必要があります。

水産物の安全は冷凍、低温維持が重要

以上のように、水産物の食中毒は冷凍、低温維持をしっかり行うことで防ぐことができます。冷凍車や最新設備の導入に加えて、機器のメンテナンスとドライバーへの専門的な教育が必要不可欠な分野なのです。

フードディフェンスと輸送におけるTAPA

水産物の輸送にまつわる危険は品質や衛生面に関することだけではありません。意図的な異物混入を防ぐフードディフェンスの徹底も近年特に重要視されています。

フードディフェンスについて当初は外部の不審者による異物混入を防ぐためのセキュリティ向上に主眼が置かれてきましたが、近年では内部のスタッフによる異物混入も同様に対策されるようになりました。

作業場内への持ち込み物の制限や防犯カメラの設置、鍵の管理などに加え、労働環境を改善しスタッフの不満を軽減することが代表的な対策になります。最近ではSNSに投稿するために衛生上好ましくない行為を食品や設備に対して行う若年層もいるため、スタッフへの教育も重要です。特に物流に関して輸送は基本1〜2名で行われるため、担当するスタッフのモラルに委ねる部分が大きくなります。

輸送時のセキュリティということでいうとTAPA(※)という規格があります。これは倉庫や輸送のセキュリティのレベルに対して認証を与える制度であり、TAPAで認証された企業は倉庫、輸送などのロジスティクス全般のセキュリティレベルが信頼できるということになります。
※( http://www.securico.co.jp/products/track/tapa.html )

自社の例ですが、いそのボデーで開発したiSkipDoorはスライド式の自動開閉システムを採用しています。これは、開閉・積み降ろし時間を短縮でき水産物の品質保持に役立つと同時に、セキュリティ面でも堅牢です。デジタルでしか開閉できず、鍵のかけ忘れもありません。

物流のフードディフェンスにおいては、積む場所・輸送中のトラック・下ろす場所の3箇所においてどのように安全を維持するかが重要です。スタッフの教育、現場の管理体制、使用するトラックの性能によって大きな影響が出るでしょう。

和食の未来は物流業界が担う!

日本人にとって刺身や寿司等の水産物の生食文化は生活と切り離せません。和食はユネスコの無形文化遺産にも登録されており、世界的にも珍しい食文化として注目されています。水産物の味がおいしいのはもちろん安心・安全であることが、今後も和食が世界で人気であり続けるために必要です。

日本人としても、これまで以上に新鮮で安全な水産物を手に入れやすくなることは魅力的です。個人がインターネットを通じて産直の水産物を取り寄せることが盛んな今、漁業業界の物流の重要性は高まっていると言えます。

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