農産物の安全を守る農業業界の物流事情~フードディフェンスと輸送におけるTAPAの重要性~

日本の農産物は世界的に見ても品質が高く、高級食材として人気があります。しかし、国内の流通においては、鮮度を保ったままロスなく消費者に届けるハードルが高く、特に果物では全体の15%以上が廃棄処分になっているのです。国内の農産物の物流事情を改善することで、新鮮な農産物を消費者が入手でき、生産者の売り上げ増加につながります。今回は農業業界の最新物流事情をご紹介します。

付加価値の高い農産物

日本の農産物は味、安全性、見た目など品質の高さが自慢ではありましたが、生産者のブランディング力が弱く、収益率の低い事業として衰退の一途を辿っていました。農林水産省のデータによれば、米の生産量は平成26年には843.9万tでしたが、平成30年には778.2万tまで減少。家畜で見ると平成26年には57.5万tだった肉用牛の生産量は、平成30年には48.3万tまで減少しています。

そんな中、農産物に付加価値をつけることで、農産物をより高値で売れるようにしようという動きが強まっています。

高値で売れる農産物としてパッと思いつくのは、「無農薬・有機栽培」「産地直送」「明らかに一般の野菜より美味しい高級品」と答える方が多いはずです。しかしながら、そのあたりの取り組みというのはどの農家も積極的に進めており、栽培手法や技術面でのアドバンテージというのは取りづらい状態になっています。要は、全体のレベルが上がったため、品質がメリットにならなくなったのです。

そのため、現在新しい付加価値のつけ方が広がっています。生産した農作物にストーリーをつけることで付加価値をつけるという動きです。例えば野菜嫌いの子供のために美味しく食べてもらえる野菜を家庭菜園で作り始めた、それが広がって、今では日本中のママパパから子供が食べてくれる野菜として注文をいただいている…というようなストーリーをホームページに掲載するのです。通販用のランディングページとして美しい画像とともに設置されているのを見たことがある方もいるでしょう。

こういったいわゆる「広告手法によっての付加価値」というのがメジャーになりつつあります。

また、農業の6次産業化というのも最近特に叫ばれるようになりました。6次産業化とは、生産(1次産業)×加工(2次産業)×商業(3次産業)というように、取り組みを掛け合わせることで、高付加価値を生み出そうということです。

具体的には、農家自身が生産した農産物を加工品にして販売する2次産業、農業体験プログラムや旧家でのお泊り体験、流通ルートの開拓などの3次産業が挙げられます。つまり農業に関わる全体を農家自身が活用するということなのです。従来のように品質の良い農産物だけ生産していればいいという姿勢では、農家の事業を持続させることは難しくなっています。

鮮度が命!生産者と消費者を結ぶ物流

付加価値を農産物につけるということが農家の収益を上げるためにはもちろん必要ですが、物流によって農産物のロスを減らし、流通の自由度を上げるという必要性も増しています。

日本の食料は、流通過程で11兆円が廃棄されるという深刻なロスを抱えています。その中でも農産物は仕入れ送料の10〜15%が廃棄され、他の食料品の数%と比べても断トツの廃棄率の高さです。

これに加えて、そもそも流通経路に乗らない農産物のロスというのもあります。これは既存の農産物の流通システムではカバーできない部分です。

生産者と消費者を結ぶ物流の進化について詳しく述べていきましょう。

ドライバーの負担を減らせるか?進む農産物の共同輸送

これまでは、生産者がそれぞれ農産物の輸送をドライバーに発注し、卸売市場まで輸送を行なっていました。この方法の場合、出荷量が安定せずにコストが掛かり過ぎたり、近年のドライバー不足により物流手段を確保すること自体が困難な状況であります。

また、農産物の積み下ろしをドライバーが行うケースでは重労働であったり、卸売市場への入荷も市場の周辺にトラックが列をなして長時間待たなければならない等、ドライバー自身の負担や時間のロスも問題となっています。農産物の物流自体を敬遠するケースというのも出てきており、深刻な状況です。

これを解消するため、生産者側では各社共同輸送の動きが強まっています。

これまで自社の農産物を輸送するためだけに発注していたトラックを数社で共用にし、より大きなロットで運ぶことによってコストを削減できます。特にオーガニック野菜のような大量生産ではない小ロット野菜は、これまでのように大型のトラックを使用するとコストが見合いません。同地域の複数の生産者の農産物を一つのトラックに集約し、卸売市場まで運ぶことによって、コスト削減だけでなく鮮度を保ったスピーディーな輸送が可能になります。

静岡県でサービスを展開する「やさいバス」は共同輸送の仕組みを使って生産者と消費者をつなげるサービスです。バス停のように設置された集荷拠点に生産者は農産物を持っていき、他の生産者の作物と一緒に運搬されていきます。そして消費者は自分の希望するバス停に受け取りに行きます。これによって、生産者は自分でトラックを手配する手間がなくなり、小ロットでも出荷できるようになりました。また、消費者は必要な時に産地直送の高品質な野菜を手に入れやすくなり、品質にこだわる家庭や飲食店などに支持されています。発注から仕入れまで0〜2日というスピード感は、生産者・消費者双方にとって魅力です。
※参考:https://vegibus.com/

また、大手物流会社のクロネコヤマトと有機栽培の農産物の産地直送サービスを手がけるオイシックス・ラ・大地は、共同で農産物物流の課題に取り組んでいます。このプロジェクトはベジネコプロジェクトと名付けられ、最終的には全国のクロネコヤマトの倉庫・営業所をつなぎ、農産物の物流をスムーズにすることが目的です。
※参考:http://www.yamato-hd.co.jp/news/h29/h29_87_01news.html

まずプロジェクトの第一弾として、生産者が生産と出荷に関する手作業での業務を軽減するシステムの提供が行われます。これはこれまで電話やFAXで入出荷のやり取りや輸送の手配をし、手書きだった帳簿作業を、PC・スマホから一括で入力しデータを共有できるシステムです。これによって作業の軽減だけでなく、間違いや混乱のない受発注が可能になり、過去のデータをもとに作業を自動化することが可能になります。
※参考:http://www.kuronekoyamato.co.jp/ytc/pressrelease/2019/news_190304.html

既存の農協物流の転換

また、既存の農産物物流のフォーマットにも柔軟な転換が求められています。具体的にはこれまでの農協が定めた物流システムに乗らない農産物の活用を見出すことです。

既存の農協の物流システムにおいては、生産者は農協が指定した作物しか生産することができませんでした。仮に生産者が自主的に指定品目以外の作物を生産しても農協を経由して卸売市場に出荷することはできず、自分で流通経路を確保する必要があったのです。しかし、日本の農産物の流通には商物一致の原則というものがあり、基本的には農産物は卸売市場に持ち込んで取引することが原則でした。これに抵触しない流通を独自に確保するのは、高齢やITに疎い生産者だと難しい現状です。

しかし2018年に農林水産省により卸売市場法の法改正が行われ、これまで禁止されていた取引が卸売市場で可能になります。目玉としては、以下を卸売市場ごとに自由に定めることができることです。
・直荷引きの解禁(仲卸を通さない産直での取引)
・商物一致の原則の撤廃(卸売市場を通さない売買)

これによって、販路の自由度が増すことだけでなく、生産者から消費者に農産物が届く時間を短縮することができるようになります。また、「売買取引の方法の公表」「取引条件の公表」「差別的取扱いの禁止」「取引結果の公表」などこれまでブラックボックスだった部分をクリアーにすることで、より公平でスムーズな流通が可能になるのです。

食の安全を支える物流の役割

農産物の物流において、産直やIT化が進むということは、より生産者と農産物に関して情報の透明化が進むということでもあります。IT化による情報の統合によって、その農産物がいつどこで誰によって生産されたのかがはっきり分かるようになり、どのような生産過程だったのか、輸送の状況などもすべて記録に残ります。消費者にとっては安心して食卓にあげられるようになり、品質の良い安全な農産物の生産者にとってはよりブランド力を高める等のメリットがあります。これを「食のトレーサビリティ」といいます。生産者から消費者に届くまでの過程がすべて明らかにされるのです。

農産物のフードディフェンス(TAPA)

また、農産物の輸送中の安全に関しても透明化が進んでいます。TAPAは漁業輸送の記事でも取り上げましたが、農産物に関しても重要です。輸送中の故意や事故の異物混入を防ぐために、前述した卸売市場内でのブラックボックスの透明化は欠かせません。また、IT化や産直が進むことで品質管理、安全管理への意識が高まることが期待できます。

農日本の農産物はまだまだ消費が伸びる

日本は世界的に見ても野菜、果物の消費が少ない国というデータがあります。これは日本人の食生活の変化というのはもちろんのこと、日本の農産物物流が新鮮な野菜を手軽に手に入れることができない仕組みになっていたことも影響しているようです。特に果物に関してはその影響が顕著で、日本の果物消費量は世界ランキングで見ると129位と最低レベルです。

こういった状況を改善して、より手軽に高品質の農産物が消費者に届く、生産者がより高品質の野菜を流通しやすくするという物流の役割は拡大しています。

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