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[連載]Part.1 東京五輪がラストチャンス?日本の物流が100年遅れるかもしれない理由

[連載]Part.1 東京五輪がラストチャンス?日本の物流が100年遅れるかもしれない理由

シリーズ連載

2020年に開催される東京オリンピック・パラリンピックをきっかけに、さらに活気づく物流業界。
一方で、そのセキュリティ体制をいかに強化し、より安全な物流を確保できるかが注目されている。
治安の良さや従業員教育の徹底を背景に「セキュリティ後進国」と呼ばれる日本の現状や課題について、TAPAアジア日本支部の浅生成彦理事長に話を聞いた。
(2016年11月18日インタビュー収録)

浅生成彦 | あそうなりひこ

昭和44年に早稲田大学卒業後、大手海運会社及び外資系航空会社に勤務。
昭和60年に(株)日本技術情報研究所設立・代表取締役に就任、現在まで30年間、海外における医療・環境・セキュリティ等の調査に携わり、特にセキュリティ分野ではコーディネーター・団長としての渡航歴が多い。
平成19年、TAPAアジア日本支部を創設、代表理事に就任、現在に至る。
主に内外の物流セキュリティの普及活動をはじめ、テレビ番組のコメンテイター、リスク管理セミナーの講師として啓蒙活動に励む。

日本はいまこそ世界最高レベルのセキュリティ導入を

――2020年の東京オリンピック・パラリンピックまであと3年半となりました。
日本でも物流に対するセキュリティを高めようと、今あらためてTAPAに注目が集まっています。
そうですね。もともとTAPA認証は、アメリカの大手電子機器メーカーを中心に、第三国に危険物が輸出されるのを阻止するという目的で始まった認証制度です。
9・11米国同時多発テロ発生以後、急速に民間ベースにまで拡大してきたといえますね。

アメリカでスタートしましたが、現在はヨーロッパ、アジア、アフリカ、中南米にも浸透しています。
特に活用が進んでいるのはヨーロッパですね。陸続きの地域は地理的にトラック物流が発達しやすく、セキュリティに関しても、国境をまたいで共通の基準を取り入れようという動きが生まれやすいんです。
国ごとにセキュリティの基準が異なると、輸送の際に混乱が生じてしまいますからね。ヨーロッパでもTAPAを物流セキュリティの共通基準として取り入れているため、かなり盗難が防止されるようになりました。

日本では、残念ながら、諸外国に比べTAPA認証の普及が進んでいないのが現状です。
そこで、2020年東京オリンピック・パラリンピックを絶好の機会と捉え、日本は今こそ世界レベルでの物流セキュリティを取り入れるべきだと思います。
例えば、食の安全では各国の選手が飲食する原料は汚染されていないか、製造現場をはじめ輸送時・保管時の遺物・毒物などの混入はないか、さらには、競技に関係するスタッフおよび、数万人ともいわれるボランティアにテロリストが含まれていないかなど、厳重なセキュリティチェックが必要です。
食品に限らず、犯行実行者は内部関係者が最も多いというのがデータで実証されています。

今回オリンピック開催のタイミングを逃したら、私は日本の物流は世界と比べ100年は遅れてしまうと考えています。
ここ3年間が、日本の物流を変える最後のチャンスです。

TAPA認証取得でかえって監視カメラの数を抑えられた例も

――具体的に、日本でのTAPA認証の取得数はどの程度進んでいるのでしょうか。

日本通運、近鉄ワールドエクスプレス、西鉄(NNRロジ)など、大手国際物流会社(フォワーダー)は取得しています。
このほか、キューピーなどの食品メーカーやキヤノンなどの電子機器メーカーなど20~25社程度です。
また本国の指示により、外資企業(DHL,HPなど)の日本法人が取得するケースが多いですね。

一方、ヨーロッパでは400社近くが認証を取得しており、アメリカ、アジアにも拡大しています。
近年では、TAPA認証を取得していないと入札に参加できないという例も増えています。
こう考えてみると、日本でいかに取り組みが進んでいないか、ご理解いただけると思います。

――なぜ日本ではTAPA認証の取得が進まないのでしょうか。

やはりコストの問題があります。TAPAの認証を取得するためには、保管施設規模(床面積)にもよりますが、約1,500万円~2,000万円近くのコストがかかります。
施設警備などは目に見えますが、ソフト面など目に見えないセキュリティについては、なかなかトップの理解を得にくく、予算がつきにくいのが現状です。

例えば、以前食品メーカーで異物混入問題が相次いだ際、食品に関するセキュリティセミナーを実施したところ、100社ほどの企業の担当者が来てくれました。
セキュリティの充実化を訴え、その直後は非常に高い関心をもっていただけたのですが、いざ導入するとなるとトップが尻込みしてしまう。

加えて、日本では、セキュリティに関する明確な基準がありません。
どこにいくつの監視カメラを配置すればいいのか、どこまでセキュリティを厳しくすべきなのか。多くの企業が自社独自の基準でセキュリティを確保しているのが現状で、常に不安を抱えています。
どこかで第三者のチェックが必要とされます。TAPAセキュリティ基準は「最低限これくらいセキュリティ確保が必要」というミニマムな基準を審査しています。
実際にTAPA認証を受けることで、適切な位置に監視カメラが配置され、かえってカメラの数を抑えられたという例もあります。

――TAPAを必要とするような事件は、実際に日本で発生しているのでしょうか。

トラック盗難等の事件件数は、日本では少ないと思われがちですが、実態が見えないだけで、実は度々発生しているのが現状です。
なぜ実態が見えないかというと、多くの企業が盗難を保険会社とのやり取りの間で処理してしまい、警察にも届け出ず、内部で収めてしまうケースが多いからです。
盗難事件が発生したという情報が漏れてしまうことで、荷主や保管業者の信用問題に発展するのを恐れているのでしょう。
実際には諸外国並みに発生していると考えられます。

TAPAアジア日本支部の浅生成彦理事長に、日本のセキュリティ事情についてお聞きするインタビュー企画の前編をお届けしました。
次回は、ヨーロッパやアジアのセキュリティを取り巻く現状と、そこから立ち遅れつつある日本が「物流の過疎地」になってしまう可能性についてお聞きします。

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