ITの進化とともにEC市場は拡大の一途をたどっており、それに伴って物流オペレーションはますます複雑化している。
そのようななか、課題解決の方策としてAIに期待する人は少なくない。
今回は、物流現場におけるAI化の最新事情を見てみよう。
日立製作所のAIによるピッキング作業時間短縮の実証実験
2015年1月、AI活用による倉庫業務の生産性向上の実証実験が日立製作所によって実施された。
流通業界においては、物流倉庫の作業効率の改善が必須といわれている。
特に、作業コストが最も高いピッキング作業の改善が求められている。
そのような状況から日立製作所は、Hitachi Ai Technology/H と名付けられた日立製作所研究開発グループ開発の人工知能を用いた業務システムを開発した。
Hitachi Ai Technology/Hはピッキングの作業結果から業務改善案の導出を行い、それを集品指示に反映させることで作業時間の短縮化を図る。
また、一般的に実際のピッキング作業は100%集品指示通りというわけではなく、作業員の長年の経験や勘に基づいて改善される場合が多いことから、Hitachi Ai Technology/H はそれらの暗黙知も取り込んで、次回の集品指示に反映させることでさらなる効率化を図るという。
さらに、商品コード、数量、時間といった多様なデータ形式も自動判別して取り込むことができるので、需要の変動も自動的かつタイムリーに集品指示に反映させることが可能だ。
AI化業務システムの実証実験は、ある企業の物流倉庫で約2ヵ月間行われ、AI化業務システムの有無によるピッキング作業時間の違いが調べられた。
事前のシミュレーションでは、AI化業務システムを使用した場合、26~36%の短縮が可能との予測も出ていたが、実証実験では業務現場のレイアウトの制約もあり、平均で8%の作業時間の短縮にとどまった。
これでもかなり作業効率が改善されたと言えるが、業務システムがピッキング作業現場により則した形に進化すれば、さらなる時間短縮が期待できるだろう。
香港エアカーゴ・ターミナルズ・リミテッドのAI導入成功例
次に、実際にAIテクノロジーの導入によって、ビジネスの拡大を図ることができた例を紹介しよう。
香港エアカーゴ・ターミナルズ・リミテッドは、航空貨物ターミナルである香港国際空港のスーパーターミナル1を運営している。
このターミナルは年に350万トンまでの貨物が扱えるよう設計されており、単独の航空貨物ターミナルとしては世界最大規模である。
このスーパーターミナル1での膨大な数の貨物の取り扱いを可能にしたのが、AIテクノロジーなのだ。
施設を最大限に有効に使いながら、空機の出発の遅れが最小限になるようにするためには、貨物の取り扱いスケジュール設定が重要である。
つまり、輸出入される航空貨物一つひとつについて、航空機から降ろしたり積んだりをどこのデッキで行うべきか、建物の中のどの経路を用いていつ運搬すべきか、空きのコンテナを保管場所からどのように出し入れすべきかといったことがすべて効率的に組まれていなければならない。
さらに、航空機の到着時間や出発時間の変更は頻繁に起こるうえ、コンテナの種類や数に変更が生じることもある。
それらがリアルタイムでスケジュールに反映される必要もあるのだ。
香港エアカーゴ・ターミナルズ・リミテッドはスーパーターミナル1を運営するにあたって、課題解決のための方策を検討し、AIによるサポートを選択した。
人の手に負えないほどの複雑なスケジュールでも、AIならばより効率の良いスケジュールを短時間のうちに組むことが可能になる。
スーパーターミナル1における2015年の航空貨物取扱量は、香港国際空港全体の航空貨物の40%にあたる163万トンに及んだという。
AIの持つ可能性を常に考えよう!
近年の物流オペレーションの複雑化の傾向は今後も続くと考えられるが、現在はAIを利用した課題解決は始まったばかりといえる。
物流、流通業界においてもAI化による改善が一般的になる日は近いかもしれない。
ただし、AIの導入は、単なる作業効率改善にとどまらない様相も見せている。
どのようなことが可能になるのか、どのようなことを可能にしていきたいのか、折りに触れて考えておくのもよいだろう。