物流にドローンを使用する試みが広がりつつある。Amazon、Googleといった企業が短時間での配達を実現するために、ドローンを利用した無人配送を導入しようとしているのだ。すでに日本でもドローン宅配実用化に向けた取り組みが始まっており、愛媛県今治市では2016年10月に実証実験が行われた。同県内では、過疎化や高齢化が進むなか、離島や山間部において“買い物難民”が増えており、生活支援策としてのドローン活用が検討されている。
ドローンのような最新のテクノロジーを利用することで解決できる物流上の問題は多いが、一方で、トラックとのすみ分けも問題となる。今回は、ドローンの活用が物流業界に与える影響を見ていこう。
Amazonがドローン活用に踏み出した理由
Amazonの打ち出したドローン宅配サービス「Prime Air」。配送時間短縮に向け、日本では千葉市で実用化に向けて動き出している。
Amazonがドローン活用に踏み切った理由のひとつに、本社のあるアメリカは国土が広く、飛行機を使うと配送コストが高くなることが挙げられるだろう。
陸送を利用する場合、日本では佐川急便やヤマト運輸など複数の大手企業があるため価格競争が起こり得る。Amazonは「即日配送」や「送料無料」といったサービスを行っているが、近年増加する再配達問題が採算割れの要因となり、2013年から佐川急便が値上げを開始。そのため、現在Amazonはヤマト運輸や日本郵便へ主力を移している。
しかし、アメリカではUPS(United Parcel Service:ユナイテッド・ パーセル・サービス)が多くのシェアを占めており、日本のように配送業者を変えることが困難だ。ほぼ独占状態であるため、配送料の値上げも容易である。こういった背景も、Amazonがドローン活用に踏み切った一因ではないだろうか。いずれはトラックも含めて物流全般を自社でまかない、コントロールしていくのかもしれない。
いち早くドローン配送実験を実施したGoogle
2014年、Googleは、物流用の小型無人機開発計画「Project Wing」を発表。同年、垂直離着陸やホバリングで空中に静止して荷物を投下する実験をオーストラリアで行った。ここで使われたのは、ボディ全体が翼になった全翼デザインに4つのローターを備えたドローンだ。
「Project Wing」は実験のその2年前からすでに計画が進められており、当初は救急医療のために考えられた技術であった。災害で孤立した地域や通常手段では配送が困難な場所に、医薬品やバッテリーなどを届けることを目的としていたのだ。そのため、ドローンは飛行機のように高速かつ効率的に飛べるよう設計されているが、将来的には医療目的での活用だけでなく、Amazonと同様にネットショッピングでの商品配送といった商用活用も視野に入れている。
オーストラリアで実験が行われたのは、アメリカよりもドローンに対する制限が少ないため。今後は実用化に向けて、さらにドローンの開発が進められる予定だ。
日本でのドローン活用事例と課題
日本では、老朽化した建物や配管のチェック、イベント会場警備など、物流以外の分野でドローンの活用が進んでいるが、「日本再興戦略2016」発表以降は物流を目的として自ら動き出す自治体も増えている。「日本再興戦略2016」では目標のひとつに「早ければ3年以内のドローン配送実現」が掲げられており、この発表を受けてドローンを積極的に活用することで国際競争力を強化し、経済活動の拠点にしようと考える自治体が増えたという経緯がある。また、高齢者や交通弱者の多い過疎化地域では、災害時に限らず物資の入手が困難で、ドローンを活用したいと考える人が多いのにもうなずけるだろう。
しかし日本の場合、通常は航空法で定められた規制によりドローンの活用は難しい。そこで、高さを始めとした規制が緩和される、いわゆる“ドローン特区”が登場しつつある。Amazonが注目する千葉市や、今治市などがその一例だ。
もっとも、今後法整備が進み、ドローン配送が普及した場合、プライバシーの問題や墜落といった事故なども懸念される。ドローンをコンピューターで制御する以上、ハッキングによる事故やトラブルも考えられる。多数のドローンが活用されるようになれば、ドローン専用の充電ステーションや事故防止のための飛行時間帯の調整なども必要となるだろう。
無人配送になる日は間近?
経済産業省は2016年9月、「2020年以降に実現が期待される新たな物流社会像」をまとめ、ドローンについても言及している。物流センターにある商品を無人トラックで配送営業拠点まで運び、そこからドローンが届け先まで配送するという、これまでは想像もできなかった画期的な仕組みである。トラック業界の人材不足解決も期待できる。また、ドローンは一度に運べる重量が限られているため、トラックとのすみ分けも可能だ。しかし、先述したようなハッキングやプライバシーなどの問題の解決策、そして配送の無人化による労働市場の変化への対応も必要となる。今後はこういった部分への対応が重視されるだろう。