工場内のあらゆる機器をインターネットに接続し、さまざまな情報を可視化することで工場全体の効率的な稼働を実現する。それが「スマートファクトリー」という概念だ。製造業界全体の効率化と製品の高品質化を実現できる画期的な仕組みであるにもかかわらず、日本ではなかなかその取り組みが進んでいない。では、ほかの国々では、いったいどのような形で導入が進んでいるのだろうか。スマートファクトリー先進国であるドイツを中心とした、欧米諸国の事例を見ていこう。
ミッテルシュタンド4.0プロジェクト(ドイツ)
ドイツ連邦政府経済エネルギー省は、中小企業へのデジタル技術の導入を促進する「ミッテルシュタンド・デジタル」(中小企業デジタル)政策を2015年から開始している。これは、同省が主体となって取り組んでいる国家レベルの大規模プロジェクトのひとつ。中小企業における業務プロセスの改善や、安全な業務手順の標準化などを目的としてテクノロジーを導入するものだ。
リーディング・エッジ・クラスター「イッツ・オウル」(ドイツ)
ノルトライン=ヴェストファーレン州のオストヴェストファーレンリッペ市(OWL:OstWestfalenLippel)」では、ドイツ連邦政府の予算を使用して『リーディング・エッジ・クラスター(先端クラスター)「イッツ・オウル」』プロジェクトが進められている。イッツ・オウルとは、人工知能分野における科学技術ネットワークとして活動する組織である。地元の中小企業を含め計170社以上が参加している。そのネットワークの中では、製造業でのオートメーションや人間と機械の協力、家電のネットワーク化、自動車の自動運転など数多くのプロジェクトが実施されている。
国際展示会「オートマティカ」における、ミュンヘン工科大学のデモンストレーション(ドイツ)
異なる通信規格を持つ異なるメーカーの場合、通常であれば互換性はない。しかし、2014年6月にミュンヘンで開催された国際展示会「オートマティカ」でミュンヘン工科大学の行ったデモンストレーションでは、複数の生産機器がひとつのコントローラーによって制御された。この出来事は、ドイツにおけるスマートファクトリー化が、企業の枠を超えたものであることを証明している。
スマートファクトリーKL「プラグ・アンド・プレイ」方式(ドイツ)
ドイツのスマート・ファクトリーKLのデトレフ・ツュールケ教授は、中小企業に導入されるインダストリー4.0は、それぞれの要素がモジュール化され、電化製品をコンセントに差しこむように簡単に着けたり外したりするだけで使えるようになるべきという意味を込め「プラグ・アンド・プレイ」方式と呼ばれる概念を提唱している。
それを体現する例として、ドイツで開催される世界最大級の産業見本市「ハノーバーメッセ」においてデトレフ教授は、機械を入れ替えてもプラグを差し込めばすぐに使用でき、それに要する時間はたったの3分間という、まさに自身の提唱するプラグ・アンド・プレイ方式を取り入れたデモ工場を展示した。
ジェネラル・エレクトリック(GE社)「インダストリアル・インターネット」構想(アメリカ)
これはドイツにおけるインダストリー4.0と同じように、IoTやM2Mといったテクノロジーを用いて、社会インフラそのものを変えようとする壮大なビジネスモデルだ。製造業のみならず、エネルギーやヘルスケア、公共、運輸といった5つの領域を対象としている。金融や重電、航空、医療、エネルギー、家電など多岐にわたる業種に参入している世界最大のコングロマリット企業であるジェネラル・エレクトリック社が、この活動の中核となっている。
終わりに
日本に先駆けてスマートファクトリーの導入に成功している海外事例を学ぶことは、日本においてそれを実現する際の手掛かりになる。積極的にこういった事例を学んでいき、自らの糧としていこう。